「おせっかい」な企業
OKAN 沢木恵太さん

日本事務器が大切にしてきた、人と人、そして人とテクノロジーの「繋がり=Connected」について、挑戦者がその価値と可能性を語りあう企画。 第3回のゲストは、置き型社食で働く人の健康を支える「オフィスおかん」や、従業員への意識調査を通じて組織づくりを支援するサーベイサービス「ハタラクカルテ」を運営する株式会社OKAN代表取締役の沢木恵太さんです。 そして日本事務器からは、これまで教育や人材分野の道を歩んできた執行役員常務・人事部長の曽我雅恵さん。 働く人を豊かにするために尽力し続けている2人が、それぞれの視点で語りあいました。
株式会社OKAN
2012年創業。 「働く人のライフスタイルを豊かにする」をミッションとし、自身の健康状態や家庭との両立、職場環境など、働きたいのに働き続けることが困難となる理由である「ハイジーンファクター」の特定から、望まない離職を生まない組織づくりに取り組んでいる。 置き型社食®︎「オフィスおかん®︎」、組織サーベイサービス「ハタラクカルテ®︎」などを提供。
日本事務器株式会社 曽我 雅恵
1986年に日本事務器(NJC)に入社。 静岡営業所システムグループに配属。 2001年より教育センターを中心に7年半ほど社員教育に従事。 その後、2008年より人事部門を中心にキャリアを築き、健康経営を推進するCWO(チーフ ウェルビーイング オフィサー)としても活躍。 現在は、執行役員常務 兼 CHRO 兼 CWO 兼 人事部長 兼 健康保険組合常務理事を務める。
なぜ、「社員の健康」を会社が考えるべきなのか
沢木さん : 100周年、おめでとうございます。 私たちOKANは事業をスタートして、ようやく10年を超えたところです。 10倍もの歴史を持つ日本事務器さんとこのタイミングでお話ができること、とてもうれしく思います。
曽我さん : こちらこそです。 今日は、「働く人」にフィーチャーして事業を展開しているOKANさんにたくさん学ばせていただきたいと思って参りました。 とくに、置き型社食「オフィスおかん」は、かねてから注目しておりました。 オフィスで栄養バランスのいい食事をとれるのは理想的だな、と。
沢木さん : ありがとうございます。
私たちはこの10年間、「働く人のライフスタイルを豊かにする」というミッションを掲げて活動してきました。 この「豊か」って、人によって解釈が異なる言葉ですよね。 その中で、私たちが考える「豊か」は「選択できること」なんです。
曽我さん : なるほど、自分で選べることが働く人の豊かさにつながると。
沢木さん : はい。 たとえば、働き続けたいのに働き続けることを「選べない」のであれば、それは豊かとは言えません。 こうしたキャリアの大きな選択から日々の些細な選択まで、自分で意志を持って選んでさえいれば人は豊かでいられるんじゃないかと考えています。 私たちはこのミッションに基づいて、望まない離職を生まない組織づくりを支援しているんです。
曽我さん : 望まない離職、ですか。
沢木さん : ええ。 そもそも多くの人が、「この仕事にはやりがい/意味がある」と感じたり、会社のミッションに共感したりして入社を決めているはずです。 でも、会社の方向性や仕事内容自体に違和感が生まれたわけではない、つまり望んでいないにも関わらず離職してしまうケースが後を絶たない。 こうした離職をどうにかしたい、そんな課題意識から「オフィスおかん」はスタートしました。 まずは、食というわかりやすい切り口の方がサポートできるんじゃないかと考えました。

【オフィス内にも設置されている置き型社食「オフィスおかん」。 想定利用価格1品100円(税込)。従業員数10名未満から10万名超の企業まで幅広く対応している】
曽我さん : 沢木さんがその課題意識を持つようになったのには、きっかけがあるのでしょうか?
沢木さん : 私自身、新卒で入社した会社の事業内容や文化に強く共感し、前のめりに仕事をしていました。 でも、結果として働きすぎて体調を崩してまったんですね。 そうすると、どれだけやりがいがあっても続けられない。 体が資本だと痛感しましたし、人口が減少し、人手不足に陥っている企業が増える中で同じような方が生まれるのは企業にとっても大きな損失だなと考えたんです。 調べると、こういった要因をハイジーンファクター(*1)と呼ぶそうで、ここに着目したわけです。
それでいうと日本事務器さんも、健康経営優良法人(*2)の認定を取られていますよね。 なぜ取得することにしたのでしょう?
(*1) Hygiene factors。 心身の健康状態、会社での人間関係、職場環境など、仕事への不満足を引き起こす要因
(*2) 経済産業省が創設した、健康経営している企業を「見える化」するための顕彰制度
曽我さん : 沢木さんがおっしゃる「望まない離職」を防ぐためには、社員が生き生きと働ける環境が必要だと思います。 そのためにどんな取り組みをすればいいのかを当社でも試行錯誤してきたわけですが……。 やはり基盤は「健康」にあるんですよね。 生産性高く働いたり、やりたいことをやるためには健康な体が欠かせませんから。 睡眠や食事が十分に取れている、体調がいい、といった土台がないと、その上の「どういう仕事をしたいか」や「どんなふうにありたいか」も積み上がらないんです。
幸い、当社の社長はそういった意識が強いものですから、健康経営優良法人の取得もスムーズに実行できました。
沢木さん : トップが社員の健康について真剣に考えていらっしゃるのはすばらしいですね。 トップへの説明がハードル、という会社様も少なくないので。
曽我さん : そうですね。 うちはその点とても恵まれていて、2020年には全社員にウェアラブルウォッチを配布して、さらにそれをオフィスの鍵とすることで着用を習慣づけました。 必然的に、日々健康に気を配ることができるというわけです。

沢木さん : なるほど、それはいい仕組みですね! ときどき、健康の責任は個々人にあるのではないか、なぜ会社がそこまでするのか、と言われることもあります。
そういった「自己責任」の姿勢で通用していた時代もあったかもしれませんが、働いている時間においては会社が社員の健康に注意を払う義務があると私は考えています。 働き方や生活環境も変化してきている中で、企業としてもその変化に合わせた取り組みをする必要性があるわけです。
たとえば、プロスポーツ選手の体調は自己責任ではなく、チームがしっかり支援します。 設備やスタッフをそろえたり、アドバイスしたりする。 それは、パフォーマンスを発揮してもらわないとチームが勝てないからです。
これが弱小チームになっていくと予算不足などの理由で個人任せになってしまい、結果、パフォーマンスも出ないし優秀な選手を集めることもできません。 これは、企業経営においてもまったく同じですよね。
曽我さん : おっしゃるとおりだと思います。
当社も「チームで仕事をする」という価値観があるのですが、チームの生産性を上げるためにも一人ひとりの健康が第一です。 会社としても、個人に委ねず手を差し伸べていきたいところですね。
企業に必要な「おせっかい」とは?
曽我さん : 私、新入社員が入ってきたときには、「この人がうちのグランマです」って紹介されるんです。 「おかん」ではなく(笑)。
沢木さん : へえ、グランマ!
曽我さん : 困っている社員がいたら優しく包み込む。 でも、優しいだけではなく言うべきことは言う。 そんな親心を持った人事部活動をしていきたいんです。 当社で働いている間はもちろんのことですが、退職してからも生き生きと働いてもらえたら、という意識でさまざまな施策に取り組んでいます。 社員に対するグランマ的おせっかいです。
リスキリング機会の提供もそのひとつですね。 学ぶためのオンラインツールを導入して、全社員が使用できるようにしており、自分の仕事に直結する分野はもちろん、興味がある分野は自由に勉強してくださいと伝えています。 ただ、忙しくて勉強時間が取れないという声が上がってきており、労働時間の10パーセントは学びに当てることを人事部として推奨して活用を促しています。
沢木さん : 学びが積み上がる感覚があれば閉塞感も生まれないでしょうし、退職後にもつながっていく。 まさに「いいおせっかい」ですね。
曽我さん : OKANさんも、「働く人に、おせっかいを」というフレーズを使われていますよね。
沢木さん : ええ。 仕事のパフォーマンスを損なう要因は、地中に埋まっている土台部分——生活との両立や心身の状態にあるんですよね。 ここは表面上は見えないことも多いので、どれだけ周囲や会社がその人を気にかけ、1歩踏み込んで「大丈夫かい?」と寄り添ってあげられるかにかかっていると思います。
私たちは、日本のあらゆる企業様に対しておせっかいをさせていただきたい、という思いから「働く人に、おせっかいを」というフレーズ、そして「OKAN(おかん)」という社名をつけました。
曽我さん : 当社では「ラストワンマイルの責任」というフレーズを使っていて、これは「NJCはお客様に一番近い立ち位置で付加価値(サービス)を提供する」というメッセージなんです。
このメッセージを社員にわかりやすく伝えるために、「おせっかい」という言葉を使うようになったんですよ。 ただし枕言葉がひとつついて、「嫌な感じのしないおせっかい」と(笑)。

沢木さん : ははは、大事ですね。
曽我さん : ちょうどいいタイミングでご連絡したり、お客様のためになることなら多少踏み込んでも進言する。 そんな「おせっかい」を推進しています。
沢木さん : ステークホルダー間で、お互いおせっかいし合えるのが理想ですよね。 お客様とも、会社と従業員も、従業員同士も。 このマインドは私たちの事業として、あるいは組織の文化としても大切にしたいと思っています。
そして、おせっかいを焼くためには目の前の相手や社員への理解が不可欠です。 そのために当社は「ハタラクカルテ」というハイジーンファクターを中心に良し悪しを可視化するサービスを提供しているのですが……日本事務器さんではどのように社員の声を収集していらっしゃるんですか?
サーベイをどう生かすか
曽我さん : 当社では毎月、エンゲージメントスコアを取っています。 ただ、サーベイを取ると、どうしても「では上司や会社はどのように対応するべきか?」という発想になりがちですよね。でも、私たちはそうではなく、みんなで「さて、どうしていこうか?」と知恵を出し合います。
つまり、上司や会社が解決策を考えるのではなく、メンバーも一緒に考えるわけです。 メンバーから代表を出して管理職と話したり、スコアをチームみんなで確認したりして、改善に取り組むツールとして使っています。
沢木さん : 一方的な施策に落とし込むのではなく、現場の人も改善に携わると。
曽我さん : ええ。 たとえばある拠点では、サンクスカードを導入してみようという取り組みが始まりました。 「ありがとう」のカードが集まった人には、ちょっとしたご褒美のお菓子をプレゼントしますって。 これ、支社の社員のみんなで考えて、みんなで取り組んでいるんですよ。
みんなが賛同して始まって、みんなの力で続いてく。 その形がすごく大切だと思っています。 人事としてもとてもうれしかったですね。
沢木さん : なるほど、人事部主導ではなく現場主導でそうした取り組みが生まれるんですね。 エンゲージメントスコアを「マネジメント層の通知簿」ではなく「みんなの物差し」として使っている。
思想のベースが「主人公が従業員のみなさん」なのが素敵だなと感じました。
曽我さん : 数字という形でスコアが出てくると、つい、かしこまった立派な施策に取り組んで大きな変化をもたらさなければと考えがちです。 でも、改善のきっかけは現場発の、ほんの小さなことでいいんですよね。 OKANさんはどのようにサーベイを生かしていますか?
沢木さん : 我々ももちろん定期的に自社でサーベイを行っています。 そしてその結果をみんなで確認したうえで、「今回はこの要素に着目してこういう取り組みをしていきます」と説明したり、逆に「この要素はたしかに悪いけれど、現状は優先度が低いためいったん保留します」と伝えたりします。

曽我さん : 無視しているわけではなく意図があるんだよ、と。
沢木さん : そうですね、新たな取り組みにしても次のサーベイにしても、納得感を持ってもらうことが大切ですから。 もう一つの大切なポイントが、サーベイによってインパクトのある大きな改善や変化を生み出すというよりは、細かい改善の積み重ねを重視しているということです。 実際にやってみて感じているのが、「手数」は重要だということ。 当社の規模だとまだ、いろいろな施策をやっては潰し、やっては潰し、ができるのでさまざまなトライを重ねています。
ただ、それを抵抗感なく実現するためには、次々に手を打っても——つまり、失敗しても許される雰囲気を作らなければいけないので、そこは意識していますが。
日本事務器さんは歴史ある企業ですが、そこのむずかしさはありませんか?
曽我さん : それが、あまりないんです(笑)。 社長がとにかくアクティブですし、社風としてもアットホームな雰囲気があると思います。 また当社には、「正しい商売」「優れた商品」「新分野の開拓」という3つの社是があり、これが社員から共感を得ており、好きだという声も多くあります。
沢木さん : すばらしいですね。
曽我さん : 会社のあり方に共感している社員が多く、みんなで取り組むことが企業文化として根付いているとも感じています。 もちろん、100年の中では順風満帆な時代だけではなかったようなんですけどね。 本当に厳しいときもあったと聞いていますし。
ただ以前、若い社員と話をしていたとき、ふと「そういう時期も乗り越えながら先輩たちがつないできてくれたこのバトンを、自分たちの代で途切れさせるわけにはいかない。もっといい形で渡していきたい」って言ってくれたんです。 うれしくてうれしくて、そういう風に思ってくれる社員が1人でも2人でも増えてくれるといいなと心から思いました。
沢木さん : すごい……私も日本事務器さんで働きたくなってきました(笑)。 歴史が足かせになっているどころか、むしろポジティブに影響しているんですね。 いろいろな企業様とお会いするなかで、制度や仕組みを変えようとしたときに現場の理解を得られずに頓挫してしまう、という声はよく聞きます。 柔軟に課題を乗り越え、「もっとよくしよう」とする文化があるからこその100周年なんだなと、あらためて思いました。
トップの役割は、伝え続けること
沢木さん : はじめに「選択できることが豊かさだ」と申し上げましたが、お話を伺って日本事務器さんはまさに「豊か」な企業なのだなと感じました。 従業員さんに対してたくさんの選択肢を用意したり、同時に選択できる自由も従業員のみなさんにあったり、それをよしとする空気が浸透していたり。 そうした企業文化が、働く方々の幸せにつながってるんじゃないかな、と。
曽我さん : ありがとうございます。 理想に現実が追いついていないところも多々ありますし、社員としっかりコミュニケーションを取っていかなければならないのですが、とにかく社員が「存在価値」を感じて、生き生きと楽しく働いてもらえるように尽力したいと思っています。 個々人の幸せを実現できる環境を整えるのが、会社の役割ですから。
これからはさらに、人材育成に力を入れていきたいですね。 社員を育てながら、健康経営やエンゲージメントも両輪で回して……課題はたくさんです(笑)。
沢木さん : 私たちはまだ創業10年程度の会社ですが、「働く人のライフスタイルを豊かにする」というゴールがブレたことは一度もありません。 社員に対してもことあるごとに伝えていて、たとえば大きな施策を進めるときには全体に向けて「どうミッションと紐付いているのか」の発信をしています。これこそがトップの役割だ、と考えているんです。
曽我さん : ただキャッチコピーとして置いておくのではなく、都度、沢木さんご自身の口から直接伝えていらっしゃるんですね。
沢木さん : ええ。 おかげさまで、採用活動の中で候補者の方とお会いすると「社員のみんながミッションについて自分の言葉で語っている」とフィードバックしていただくことも多くて。 それは、とてもうれしい瞬間です。
今後は社員も増えたり、「ハタラクカルテ」をはじめ複数の事業やサービスを取り扱ったりすることにもなるでしょう。 そうした成長のなかでも、日本事務器さんのようにミッションやカルチャーをしっかりと持続できるよう、メンバーと向き合っていきたいですね。
曽我さん : 「働く人」に向き合い続けているOKANさんの姿勢、とても勉強になりました。 これからもお互い、働く人の幸せを追求していきましょうね。